キャロル パトリシア・ハイスミス

クリスマス商戦のさ中、デパートのおもちゃ売り場でアルバイトをする十九歳の女性テレーズは、美しい人妻と出会う。彼女の名はキャロル。テレーズは恋に近い気持ちを胸に、キャロルに誘われ自動車旅行へ。二人を待つ運命を、彼女たちはまだ知らない……サスペンスの巨匠ハイスミスが匿名で出した幻の恋愛小説、待望の本邦初訳。

映画公開時にオススメされていたが見に行くことが出来なかったので読む。知らなかったが「太陽がいっぱい」の作者である。

内容は同性愛恋愛小説であり、クリスマスカードを勇気を出して投函する場面などは好ましかった。ボーイフレンドリチャードとの曖昧な関係や嫌みな態度を取られる場面などは不思議だったが、あとがき内で、

当時やこれ以前の同性愛小説では最終的には自殺などの不幸な結末になるか、異性愛者に転向するか、単にポルノグラフィティな存在であるかであったので、素直な恋愛小説でありハッピーエンドであったことからベストセラーになったのだ、といった内容が描かれていて納得した。

管理社会での息苦しさなど、1950年代のアメリカの空気を感じる作品。

 

姉の感想:私は映画を見たんだけど、当時の雰囲気をいまいちつかみ切れてないから、当時そういった行動をするのがどれだけ思い切ったことだったのかがよく分かんなくて、それで乗り切れなかったってのはあったよ。

月は無慈悲な夜の女王 ロバート・A・ハインライン

紹介より

2076年7月4日、圧政に苦しむ月世界植民地は、地球政府に対し独立を宣言した! 流刑地として、また資源豊かな植民地として、月は地球から一方的に搾取されつづけてきた。革命の先頭に立ったのはコンピュータ技術者マニーと、自意識を持つ巨大コンピュータのマイク。だが一隻の宇宙船も、一発のミサイルも持たぬ月世界人が、強大な地球に立ち向かうためには…ヒューゴー賞受賞に輝くハインライン渾身の傑作SF巨編!

 前記事でも書いたが、ハインラインといえば、日本SFファンなら「夏への扉」が挙げられるが、アメリカでならこの「月は無慈悲な夜の女王」(もしくは宇宙の戦士か。)だろう。「独立戦争」はアメリカの根幹的な物語である。また描かれる月社会は流刑地であり、殆ど決まった法律はなく、他人(や政治)をあてにせず、自分のことは自分で守るのだという考え(自由主義?自由意思主義?)が度々演説されており、これが「独立」の考え方によるものなのか?と思われた。

特に、

  • タンスターフル」:ドリンク購入のお客様にはランチ無料=ランチ代はドリンク代に転化されており、無料の昼飯などというものはない)
  • 「家系型結婚について」:結婚の習慣は環境のもたらす経済的必要性から起きており、端的にいえば資本を保存し子どもの福祉を確保する目的からだ。

の演説が面白かった。マイクの最期についてはノーコメント。

守護天使・時の矢・海にいたる道 アーサー・C・クラーク

守護天使

幼年期の終わり』第一部の原型短篇。内容もほぼ同じであるが、ここで示されるオチ(カレレン達の正体)は第二部まで引っ張られている。

 

「時の矢」

恐竜とタイムスリップ。ヘリウムⅡ(私は液体ヘリウムで記憶していた要素)の動作は面白い。

 

「海にいたる道」

本篇も『銀河帝国の崩壊』第一稿から、その完成形『都市と星』(1956)へいたる試行錯誤の産物。作中に登場する黄金のスフィンクス像が印象的だが、ウエルズの「タイム・マシン」に出てくるスフィンクス像の影響は明らかだ。どちらも悠久の時の流れをみまもるシンボルである。

 宇宙へ旅だった人々と地球で牧歌的な生活を送る人々との一瞬の邂逅、<麗しのシャスター>(理想郷であった都市)は変わっても、それを見下ろす<黄金のスフィンクス>、そして海はいつまでも変わらずある。

コマーレのライオン・かくれんぼ・破断の限界 アーサー・C・クラーク

「コマーレのライオン」

遠い未来、科学が発達しきったユートピアとなった地球、そのどこかに「コマーレ」潜在意識に埋もれた欲求を叶えてくれる都市があるという。それを探し訪ねた主人公の話。端的に言えば思考分析器がこちらの潜在意識を読み取り、訪れた者を眠らせ、希望の夢を現実と見まごうばかりに見せてくれる場所。そして通常二度と目覚められない。所謂ディストピア的な展開だが、主人公は無事脱出する。

コマーレのさしだす骨の折れない祝福の方が外の世界よりも良いのでは、と思いつつ。

 

「かくれんぼ」

宇宙空間(星)でのスパイと巡洋艦の追いかけっこ。SFらしい。

 

「破断の限界」

SFには<方程式もの>と呼ばれる一群の作品が存在する。乗員過剰のため、そのままでは全員が死亡してしまうという宇宙船内の極限状況をあつかったもので、トム・ゴドウィンの短篇「冷たい方程式」(1954)に由来する名称だ。本篇はゴドウィンの名作より前に発表された<方程式もの>の秀作。

事故により 宇宙船内の酸素が不足してしまった、2人の乗組員の駆け引き。ややサスペンス。

太陽系最後の日・地中の火・歴史のひとこま アーサー・C・クラーク

「太陽系最後の日」

太陽は七時間後にノヴァと化し、太陽系全体の壊滅は避けられない運命だった。だが一隻の銀河調査船が、その生計の第三惑星に住む知性体を救うべく全速航行していた! 

 人類のために奮闘する異星人達を描いた作品。種々のなかではパラドー人の設定が面白い(一体に個性を持たず、種属の意識を構成する独立した細胞として活動する、会話もするし時には見栄も張る) 最後の人間はすごい!というオチはいらないとすら思う。

 

「地中の火」

地下世界を見つけた博士の文章を読んでいたのは、地上世界を滅ぼしてしまった地下世界の人々だった、という話。

 

「歴史のひとこま」

金星人が遠く滅びた地球で発見したフィルムを見て、何か分からないという話。シュールな笑い。

夏への扉 ロバート・A・ハインライン

ぼくの飼っている猫のピートは、冬になるときまって夏への扉を探しはじめる。家にあるいくつものドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。1970年12月3日、かくいうぼくも、夏への扉を探していた。最愛の恋人に裏切られ、生命から二番目に大切な発明までだましとられたぼくの心は、12月の空同様に凍りついていたのだ! そんな時、<冷凍睡眠保険>のネオンサインにひきよせられて…永遠の名作。

 言わずとしれたハインラインの代表作の一つ。キーワードはロボット(文化女中器や彼の発明)・冷凍睡眠とタイムトラベル(時間移動)といったSFらしい要素と、猫やロマンスといった萌え要素である。その爽やかな作風から日本SFファンの中ではベストランキングに度々選ばれるが、本国アメリカでは殆ど名前が挙がることがないという不思議な小説。ちなみにアメリカでは他記事で紹介した「宇宙の戦士」や「月は無慈悲な夜の女王」が挙げられており、アメリカ人の「独立」や「自由」好きがよく分かる。

日本の中でイスラム教を信じる 佐藤兼永

紹介より

日本で学び、働き、生きる、11万人のイスラム教徒。彼らはいかに生き、いかに祈るのかーー

 日本で生きるイスラム教徒に行った取材。在日外国人の他に、日本人で後年イスラム教徒になった人、それぞれの思い等紹介されている。

東京新聞のシャルリ・エブド風刺画転載からデモ、そして人質事件という一連の時系列では、イスラム教は恐い宗教であるという誤解だか度々マスメディアで描かれる姿が見られて残念だったことを思い出した。

私には上記のようなデモは平和的なものなのか、イスラム教徒が会社などで受け入れられるとしてもそれは外国人として(ある種仲間ではない、お客様意識)からのことなのかは分からない。ただし日本人は自分たちが思っているほど宗教的寛容さを持っているわけではないことを認識した方が良いのだろう(何故~教を信じているのか等の礼を失する行為もよく行われるし、そもそも他人の信仰には口を出すべきではない。)