消滅世界 村田沙耶香

紹介なし。

人間が人工授精によって出産するようになり、恋愛状態と結婚が完全に分けられた世界設定。夫婦(というより家族)は社会的存在であり、性的存在にするのは間違っているとされている。

後半ではそこから更に進化して、家族(ファミリー)制度はすでに崩壊しており、新たな制度として楽園(エデン)制度を取り入れた社会になっていく。

恋愛感情は寂しさの行き場によって生まれるものであり、子どもを可愛がることで発散できる・赤ちゃん工場を見て生命は続いていく(生命の神秘への感動ではなく、ディストピア的なニュアンス)と考えるところが印象的。また、

「家族」はついさっきまで、私たち二人の大切な宗教だったではないか。酔っているなら、これが夫の本音なのだろうか。私たちは、家族という宗教の敬虔な信者で、だからこそこうして、たいして知りもしない他人同士が同じ部屋の中で安心しきって暮らしているというのに。(p157)

のように何のために家族なのか恋人なのか、そしてそれは何なのかという問いに苦しむ話である。

何となくハーモニー(伊藤計劃)を思い出して似ているような気もしたがそんなこともなかった。