殺人出産 村田沙耶香

紹介より

『10人産めば、1人殺してもいい。「殺人出産制度」が認められた世界を舞台に、「生」と「性」の倫理観に疑問を突きつける衝撃の問題作!

「産み人」となり、10人産めば1人殺してもいいーー。そんな「殺人出産制度」が認められた世界では、「産み人」は命を作る尊い存在として崇められていた。育子の職場でも、またひとり「産み人」となり、人々の賞賛を浴びていた。素晴らしい行為をたたえながらも、どこか複雑な思いを抱く育子。それは、彼女が抱える、人には言えないある秘密のせいなのかもしれない……。

三人での交際が流行する、奇妙な世界を描いた「トリプル」など短篇3作品も併禄。普通の価値観を揺さぶる挑戦的作品集。

 4作品の短篇集録集。

表題の「殺人出産」、3人での交際が流行する「トリプル」、家族から性を排除した結婚を望む「清潔な結婚」、死が自然のものではなく、自分で死ななければならなくった「余命」の4作品。SF的というよりは大喜利的に、~社会という舞台設定のなかで人はどう動くかという小説。

 

・殺人出産

殺人は悪いことではあるが、産み人が生命を育むことに付随して必ず殺人があるので、これは肯定されるという世界観。産むという苦痛に対してメリット・報酬としての殺人。生命を生み出すことと生命を殺すことは対応した問題ではないとは思うが、そういう世界なのでそれは置いておく。

 

姉「白いお腹にナイフが刺さって、そこから赤い血が溢れてくる描写が鮮やかで、色の印象が強い話だった。」

自分「産み人とその中の子供たちを思って敬虔にお祈りをするシーンが印象に残った。あと被害者は気の毒。オチは納得。」

 

・トリプル

2人のセックスが生々しくて気持ち悪い、3人のセックス(作中ではマウス式セックス)の方がいいという主人公。恐らく作中の大人には、ただ単純に思春期の女の子がセックスに忌避感と嫌悪感を持っており、相手を道具的に使うセックスの方が良いと感じているように見えると思われる。マウス式セックスが妙に格式張っているのも児戯感を与える・もっと自由でいれないのだろうか。

 

・清潔な結婚

家族は社会的な存在であり性的な存在ではない、それを合わせているから問題なのだという考え方。後は子作りだけが問題で、それにいたって困っている夫婦の話。所謂シリアスな笑い。

 H28/4/20 追記

クリニックでの受精方法について、セックスが嫌なのであればIUIでもIVFでも使えばいいのに、その方法が示されていないのは未来の日本という設定上おかしいし茶番だと思う。作者が描きたいこととは違うということは承知するとしても、客観的に見れば「セックスはしたくないが子どもは欲しいので不妊治療をする夫婦」であり、それは多数派ではないが、そこまで少数派ではない。

 

・余命

短い。